【OAHSPE考察】ザラツゥストラの遺言について

ゾロアスター教の聖典「アヴェスタ」に残る「ザラツゥストラの遺言」

『OAHSPE』によれば,ザラツゥストラはイフアン人の神イフアマズダと共に,最高神オーマズド(ジェホヴィ)の教えを聖書にしたためたと言います。(『OAHSPE』23書「神の言葉の書』7章-17)
天界の図書館にはザラツゥストラの聖書が保管されており,恐らく冒頭の部分だと思いますが,『OAHSPE』23書「神の言葉の書』8章に掲載されています。その内容は『OAHSPE』の第3書「ジェホヴィの書」第1章~第2章に似ています。
この聖書はゾロアスター教としてパーシー(ペルシア)国を中心に流布し,その信者はザラツゥストリアン(ザラツゥストラ人)と呼ばれました。

ザラツゥストラはパーシーの王都オアスで生まれました。生まれた時から神イフアマズダが宿っており,その奇跡が町の評判となっていました。そのため時のオアス王ソーチに警戒され,捕縛の命が出されました。
ザラツゥストラは母トーチェに抱えられ,町を逃げ出し,「山羊の森」で暮らすリスティア人の庇護を受けました。
ザラツゥストラは青年期をリスティア人の下で暮らし,成人後はオアスの王アシャの庇護を受け,生まれた時から自身に宿っている神イフアマズダと共に聖書を編纂し,それをアシャ王の力を借りてパーシー国内に配布しました。
当時,パーシーの国内は戦乱が続き,町は戦勝を飾るように人間の頭蓋骨などが門や壁に吊るされていました。神イフアマズダはこのような暴挙を食い止めたいと考え,ザラツゥストラに各地を巡察させて,こういった横暴な町を懲らしめに行かせました。
そして神イフアマズダが最後に制裁を加えたのは,ザラツゥストラが生まれた町オアスでした。
オアスの町を統治していたアシャ王は既に退位してザラツゥストラの弟子となっており,時のオアス王はポニャと言いました。
ザラツゥストラは青年期を過ごした「山羊の森」で最後の晩餐を開いた後,オアスの町に向かい,そこでポニャ王と対談し改心を迫ろうとしました。しかしザラツゥストラは指名手配犯であったため,オアスの町に入ると門番の手により捕縛され,処刑されました。
ザラツゥストラにはオアス町内に数多くの信者がいました。ザラツゥストラの処刑後,多くの信者が暴動を引き起こし,ポニャ王は暴徒により殺されました。

ザラツゥストラの霊魂は,当時,ダンの夜明けのため地球に降臨していたオブソドとグーマチェラのオリアン長フラガパッティが受け取り,上天へと連れて行かれました。
神フラガパッティの昇天後,地球はフラガパッティの弟子となった神ホーブが統治しました。
神ホーブは「神族会議(Diva)」の長として地球を平和に統治しました。この時代はまだ神フラガパッティの神意が行き届いていました。
しかし神ホーブの昇天後,神フラガパッティの神意は次第に弱くなり,地球の主神の一人であった神クトゥスクはアフラと名乗り,神族会議から脱退し,独立しました。
偽神アフラが地球の神々に反旗を翻したのには理由がありました。それは地球が闇に包まれ光が届かなくなるたびに人間の心が闇落ちするのを嘆き,地球にダンが訪れ,闇に包まれても,光を失わないようにすることが狙いでした。
光の源は創造主が暮らす涅槃にありました。しかし地球にダンが訪れると,地球は闇に覆われ,光が届きにくくなります。光を失った地球では,人間の心の闇が深くなります。
偽神アフラはこの解決策として,地球に創造主を創設することを思いつき,実行に移しました。地球に光の源である創造主を創設すれば,たとえ地球を闇が覆っても光は失われなくなるからです。

アフラは自分の考えを一から構築せず,当時,多くの人々が信仰していたザラツゥストラの聖書を改竄しました。理由は,その法が手っ取り早くザラツゥストラ人を取込めるからです。

現在伝わるゾロアスター教の聖典「アヴェスタ」にはその概念が色濃く出ています。その例が大地の神スプンター・アールマティの存在です。この大地の神は最高神アフラの妃という立ち位置にあります。創造主と同じ立ち位置に据えることで,アフラは自分の考えを実行に移したのでした。
しかし現在のゾロアスター教の聖典「アヴェスタ」は偽神アフラに改竄されているものの,改竄されずに当時の原文のまま残っている可能性も残っていました。
そこで「アヴェスタ」の中で古アヴェスタ語で書かれた部分に着目し分析したところ,ヤスナ第33章の14節に,ザラツゥストラの遺言と思われる一節を発見することができました。
その内容は次の一節になります。

ザラスシュトラは自分自身の命をも,贈り物として,
善思と行と語の優越性を,従順と支配力を,
マズダーとアシャに捧げます。

『アヴェスタ』ヤスナ第33章 14節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

現在の聖典「アヴェスタ」に対する違和感について

現在の聖典『アヴェスタ』ですが,アフラマズダを最高神として,同格の存在のアムシャ・スプンタの神々が配されています。

・アフラ・マズダ(最高神)
・ウォフ・マナフ(善思を司る神)
・アシャ・ワヒシュタ(善良を司る神)
・フシャスラ・ワリヤ(金属を司る神。「望ましい支配権」を意味する)
・スプンター・アールマティ(大地の守護神。アフラ・マズダーの妃。「恵み深い献身」を意味する)
・ハルワタート(健康を司る神)
・アムルタート(不死を司る神)

ところが「アヴェスタ」には,アフラマズダとアシャがセットで記載されることが多々あります。アシャは「善良を司る神」とされていますが,似たような概念に「善思を司る神」ウォフ・マナフがおり,この両者はどちらが優れているという存在ではありません。そのため文脈の制限を受けないのであれば「善良の神」と「善思の神」は併記すべきです。しかし併記されないことがあり,その一つがヤスナ第33章の14節です。
特に2行目に「善思と行と語の優越性」と書いておきながら,捧げる相手は「マズダーとアシャ」であり,「善思を司る神」ウォフ・マナフがいないのはかなり不自然な内容になります。

聖典『アヴェスタ』に「マズダーとアシャ」がセットで記される理由

『OAHSPE』23書『神の言葉の書』は,ザラツゥストラの伝記とも呼べる内容になっています。この書の中で,ザラツゥストラの主要な関係者として登場するのが以下の3名です。

  • 神イフアマズダ
    ザラツゥストラの生まれる前からの守護神
  • アシャ
    ザラツゥストラの出産後,その奇跡を耳にしてザラツゥストラ母子に面会。その後,ザラツゥストラとは様々な形で付き合うことになり,最後はザラツゥストラの死を看取る。ザラツゥストラの生涯に深く関わった人物。
  • 母トーチェ

この中で第23書『神の言葉の書』の最初から最後まで登場するのは神イフアマズダとアシャだけです。つまりザラツゥストラの人生において,この2人は別格な存在でした。当然ながら,ザラツゥストラがしたためた聖書にも,この二人への賛辞は綴られていたと考えるのは至極自然だと思います。
偽神アフラは,この二人の賛辞の全てを抹消できなかったため,やむなくこの二人の名前をそのまま残したのではないかと思います。

ヤスナ第33章-14節が「ザラツゥストラの原典からの転用」であると考える理由

偽神アフラの改竄の手口は,ザラツゥストラの聖典に記された「(イフア)マズダとアシャ」の組合せを残したまま転用することです。その方が信者たちを騙しやすいからです。
一方で,聖典「アヴェスタ」に新規で追加した文章には,普通にアムシャ・スプンタの神々を記載しています。
このような改竄の手法を採った場合,全後の文章で脈絡(特に文章の基調)が合わない部分がいくつか出てきます。特にヤスナ第33章の1~13節と,14節の間にはキャズム(断裂)があります。13節まではアムシャ・スプンタの神々がいろいろと登場するのですが,なぜか14節だけは,マズダーとアシャ,そしてザラツゥストラの名がそろって出ており,アムシャ・スプンタの神々の名は出て来ていません。しかも「善思」について触れているのに,ウォフ・マナフの名は出ていません。
こうした理由から,ヤスナ第33章の14節だけは,ザラツゥストラの聖典(原典)からの転用であると考えています。

ザラツゥストラの遺言について

聖典「アヴェスタ」のヤスナ第33章の14節はたった3行の文章ですが実に含蓄のある内容になっています。

最初に「自分自身の命をも,贈り物として」と記していますが,これは死を前提とした言葉のように聞こえます。
ザラツゥストラは最後の町オアスを訪問する直前に,青年期に育った「山羊の森」で最後の晩餐を行っています。
この訪問に同行したのはアシャでした。
ザラツゥストラはオアスの町で門番に騙されて捕縛されてしまいますが,このような危機はオアス以外の町でもあり,その都度,ザラツゥストラは神イフアマズダの力を借りて何度も跳ね除けました。しかしこの時はそういった抵抗を見せることなく,死を甘受するかのように処刑されました。
恐らく,ザラツゥストラはオアスの町を解放したら死ぬことを決めていたのだと思います。
当時,パーシーの国々は戦争で荒廃し,中心都市であったオアスはその元凶であり,神イフアマズダはザラツゥストラが生まれた時からオアスの町を滅ぼすと宣言していました。
ザラツゥストラはパーシーの国々を訪問し,数多くの町を解放して回りましたが,時にはその町の王(統治者)を神イフアマズダが扇動した人々(暴徒)により殺したりもしました。
ザラツゥストラはそれが必要悪だと知りながらも,そして自分が手を下していなくても,その罪を背負い続けていました。
そのため,当初の目的であり,解放されずに残った最後の町オアスでの務めを果たしたら自分の生涯を幕引きしようと心に決めていたのかもしれません。
自分自身の命をも,贈り物として」という言葉は,死を覚悟していないと出てこない言葉です。
そしてこの言葉を語ったのは,最後の晩餐の時ではないかと思います。
この時に語ったザラツゥストラの遺言,それは次のようなものでした。
善思と行と語の優越性」,つまり,善思,善行,善語が何よりも優れていることを,自分が死をもってそのことを信者や人々に伝えることで,「従順と支配力を」自分が生涯を通じて付き合ってきた神イフア「マズダとアシャに捧げ」るーー。

この言葉を,自分の誕生から死まで見守ってくれた神イフアマズダと友人アシャの二人に送ったのでした。


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