1節
あなた方のこの規則を念頭において,
『アヴェスタ』ヤスナ第31章 1節
ドルジの規則によってアシャの生き物を滅ぼそうとするものどもには聞いたことのない言葉を,
またマズダーを信じる者たちには最上の[言葉]を我らは語りましょう。
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会
本章は22節と長いですが,全体は5部構成になっており,比較的分かりやすい主張になっています。
節 | 概要 | テーマ |
---|---|---|
1節~6節 | 正義に従う者たちと,不義に生きる者(ドルジ)について。特に後者に対しては力により制裁する。 | 正義を保護し,悪を制裁することの表明 |
7節~13節 | 人間の行為や思考は神々は見ている | 悪行は露呈する |
14節~18節 | 義者と不義者には相応の報酬が与えられる | 正義と不義に対する報酬 |
19節~20節 | 義者を守るために不義者と戦う | 不義者への制裁 |
21節~22節 | 神々の良い支配により正義を保つ | 神々の支配への期待 |
本章は,最初に正義を守るために悪を制裁するという宣言から始まります。神々の制裁に対して,不義者は悪行を隠そうとしても露呈すると説き,義者と不義者には相応の報酬(因果応報)があり,不義者は必ずその報いを受けてもらうので,そういった神々の支配に期待したい,というのが本章の流れになります。
こういった構成が背景にあることを踏まえて,本章を考察していきます。
本節ですが,まず1行目の「この規則」とは,前のヤスナ第30章を受けています。
まず『ヤスナ第30章』では,光(善,正義)と闇(悪,不義)の二つの霊の話があり,闇の霊魂(ドルジ)に罰を下し,彼らが繫栄している世界を崩壊させ,正義を行う者(義者)に幸福をもたらすということが記されています。
これを受けて,「ドルジの規則」つまりドルジたちが自分たちのやり方で好き勝手に行い,正義を行う者を滅ぼそうとするならば,「聞いたことのない言葉」つまり呪いの言葉でドルジの繁栄を崩壊させ,「マズダーを信じる者」には最上の言葉,つまり祝福を授けるとここでは言っています。
この一節は,本来は次のように創造主オーマズドに置き換えても意味が通るので,実際の原文は次のようなものだったと考えます。
あなた方のこの規則を念頭において,
ドルジの規則によってオーマズドの生き物を滅ぼそうとするものどもには聞いたことのない言葉を,
またオーマズドを信じる者たちには最上の[言葉]を我らは語りましょう。
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