【OAHSPE考察2】古アヴェスタ語で書かれた「ガーサーのヤスナの書」について

ゾロアスター教の聖典『アヴェスタ』については,以下を底本としています。
 底本:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

また,教祖ザラツゥストラの生涯は『OAHSPE』第20書『神の言葉の書』を参照ください。

アヴェスタの中でも最古の「ガーサーのヤスナの章」が難解な理由(その1)

 聖典アヴェスタの中でも古アヴェスタ語で書かれたガーサーは,その成立が最も古いと言われています。参考にさせていただいている底本でも,特にこの部分をヤスナから切り離して独立した章として取り扱っているのは,研究者の側からするととても有難い配慮です。なぜなら,日本語に翻訳された時点で原本がアヴェスタ語で書かれているのか,それとも古アヴェスタ語で書かれているのかが区別つかなくなるからです。
 その点で,底本は古アヴェスタ語で書かれた部分を別章としているため,余計な気を回すことなく底本と向き合えるため非常に感謝しており,この場で謝意を述べさせていただきました。

 さて,教祖ザラツゥストラが執筆し,原本に近い可能性がある古アヴェスタ語で書かれた「ガーサー」ですが,聖典だけを読んでも理解できません。
 何よりも難解なのは,その概念です。例えば男神女神といった単語が出てきますが,実体コーポ界の人間には『ギリシャ神話』に登場する神々のイメージが強く,実感があまり湧かないというのが実情です。
 霊界という単語もアヴェスタには登場しますが,それについても同様です。日本で馴染みのある宗教と言えば仏教であり,霊界と言えば,死後の世界が最初に想起されると思います。
 霊界を,死後に行ける場所と理解するのは間違いではありませんが,正解でもありません。
 それでは『アヴェスタ』に「霊界」について触れられている一節を取り上げ見るので,それを解釈してみてください。

この私に,物質界と霊界の恩恵をアシャに従って与えて下さい。

聖典『アヴェスタ』ヤスナ第28 -2 (冒頭に記載した底本より引用)

 物質界は理解できると思います。問題は霊界の部分です。霊界を「死後の世界」と解釈すると,この文章は理解できません。別に死後の世界の恩恵を受けたいわけではないからです。
 この文章を理解するには,この世界が『目に見える世界』と『目に見えない世界』で構成されていることを理解する必要があります。私たちが目に見えている世界の他に,目に見えない世界が隣接しています。ヤスナ第28章の引用部分は,その2つの世界から恩恵を賜りたいという意味になります。
 そもそも『目に見える世界』と『目に見えない世界』とは何なのでしょうか?
 例を挙げるならば,電気です。私たちの文明は『目に見えない』電気の恩恵を多大に受けています。その電気(特に交流電気)は,波形の部分を数式化した「オイラーの公式」がなければ表現できず,オイラーの公式には虚数という概念が使われています。虚数とは同じ数字を乗算すると負になる数値のことです。虚数の反対は実数といい,-1という負の値を二乗すると符合(-)が相殺されて1になりますが,虚数の場合,同じ数値を乗算すると,実数であれば相殺されるはずの符合が反転して負の値になります。このように理解できない概念を使用しないと電気を数式化することはできないのです。
 この数式からもう少し話を進めると,実数が「物質界(目に見える世界)」だとすると,人間には理解できない「虚数」が「霊界(見に見えない世界)」となります。電気はこの2つの力を使って編み出されているのです。
 このことから『目に見えない世界』は実在することがご理解いただけたかと思います。しかもそれは,決して「死後の世界」という狭義の意味ではなく,私たちの身近に存在する世界です。
 引用した一節は,物質界(=目に見える世界),霊界(=目に見えない世界)を理解して初めて正しく解釈できるようになります。物質界だけでなく,霊界の力も借りることで,私たちはさらに豊かな生活を営めるようになります。それを「賜りたい」というのがこの引用部分の主旨になります。
 この大前提の部分が,現存するアヴェスタには欠けており,それが聖典『アヴェスタ』を難解にしている要因の一つとなっています。

アヴェスタの中でも最古の「ガーサーのヤスナの章」が難解な理由(その2)

 古アヴェスタで書かれたガーサーの部分は,教祖ザラツゥストラが執筆した原本に近い可能性があるのですが,それだけに執筆当時(と思われる)固有名詞が多く,それがさらに内容を難解なものにしています。
 理解不能な固有名詞は,文章の前後から意味を推察するしかないのですが,それを誤って解釈すると間違った知識のまま,今度は異なった解釈へと繋がり,その結果,教祖ザラツゥストラが意図していない内容へと変えられていくことになります。
 その一例が,神アフラ・マズダーを「創造主」としている点です。聖典『アヴェスタ』に登場する神アフラ・マズダーは,『OAHSPE』ではイフアマズダI’hua’Mazdaと呼ばれており,その名は「イフアン人の神」に由来しています。イフアン人とは,イヒン人とドルク人の混血人であり,イヒン人は「聖なる民」と呼ばれ,創造主オーマズド(ジェホヴィ)が人間(アス人)を創造した際,アス人を導くため外宇宙から地球に連れて来た天使たちが受肉してアス人と儲けた子供になります。しかし天使の行為は創造主の意図に反しており,創造主の怒りを買いましたが,天使の血を直接引くため,非常に霊感が強く,天使の声を聞くことができ「聖なる民」と呼ばれました。
 一方でドルク人は,堕落したイヒン人がアス人と儲けた子供になります。そのためドルク人は闇落ちした人種となります。こちらはイヒン人と異なり天使の声を聞くことができず,悪に手を染めることが多い種族でした。
「聖なる民」イヒン人と闇落ちしたドルク人の混血がイフアン人になります。このイフアン人を管理する神がイフアマズダ(I’hua’Mazda)です。聖典アヴェスタには「アフア・マズダー」として登場しますが,同一の神です。
 神についても解説すると,ザラツゥストラの時代,創造主の名はオーマズドと言い,創造主は宇宙に地球や星々を創造したり,男神女神(上位神)といった子供たちを創造しました。創造主は地球に様々な動物や人間,天使を創造し,自分の子供たち(上位神)に地球や星々を管理させました。地球に属する天界は下天と呼ばれ,地球生まれの天使たちはここで暮らします。その天使たちも研鑽を積むと位階を上げ,神や主神となることができます。
 アフア・マズダー(イフアマズダ)は,外宇宙から上位神フラガパッティが地球に降臨する前から地球で暮らし,イフアン人を管理していました。
 このことから,アフア・マズダー(イフアマズダ)は創造主ではありません。創造主ではないアフア・マズダーを創造主として崇めるようになったのは,おそらく後世の人間が間違った解釈で加筆したことが原因と思われますが,それならば,教祖ザラツゥストラは創造主についてどのように言及したのしょうか?
『OAHSPE』によれば,ザラツゥストラが執筆した聖典には次の3つの法が記載されていました。それはオーマズドの法,イフアマズダの法,ザラツゥストラの法です。
 オーマズドの法は創造主の視点に基づく法であり,万物の理を記載したものになります。イフアマズダの法は下天で暮らす神や主神たちが定めた規律や秩序の法であり,ザラツゥストラの法は人間視点での法になります。
 現存する聖典アヴェスタには,オーマズドの法が完全に散逸しているのです。それにも関わらず,オーマズドの法が残っていなければ理解できない単語がザラツゥストラの原本(古アヴェスタ語で書かれた部分)に散りばめられているため,それがより一層,聖典アヴェスタを難解なものにしており,その単語を推測で,しかも誤った内容で後世の人間が加筆したため,ザラツゥストラが執筆した時点とは異なる内容に変わっていったのでした。
 このこともまた,ザラツゥストラが執筆した原本に近い「ガーサー」を難解にしている要因となっています。

聖典アヴェスタからオーマズドの法が消えた理由について(推測)

 教祖ザラツゥストラが最初に執筆した聖典アヴェスタは,本来はオーマズドの法,イフアマズダの法,ザラツゥストラの法の3部構成であったと考えられます。(OAHSPE-20『神の言葉の書』)
 現存する聖典アヴェスタにはオーマズドの法は残っていませんが,内容については「OAHSPE-20『神の言葉の書』8章」によりうかがい知ることができます。内容は『OAHSPE』の第3書「ジェホヴィの書」に近いです。
『OAHSPE』は『神の言葉の書』8章の冒頭で,この章を天界の図書館から転記した旨を記しています。ザラツゥストラが執筆した原本はこの世に存在しないことは,『OAHSPE』を執筆した天界の神々も知っていたはずです。そのため『神の言葉の書』8章は天界の図書館から転記した旨を敢えて記述することで,この部分がオーマズドの法に該当することを示唆したのではないかと推測しています。
 ちなみにイフアマズダの法の概要は「OAHSPE-第21書『真神の書』1章-24-30」に記されています。要約すれば,人間が守るべき秩序や規律について定めたものです。
 
 ここでオーマズドの法が消失した理由について考察していきます。
 ゾロアスター教では,アフア・マズダー(イフアマズダ)を創造主として崇めています。しかしザラツゥストラが執筆した聖典は,確実に創造主はオーマズド(ジェホヴィ)であり,アフア・マズダー(イフアマズダ)は人間(イフアン人)を管理する神という立ち位置でした。オーマズドの法が長い歳月の果てに消失したのであれば,その名(オーマズド)は残って然るべきです。しかし創造主の存在は残っており,それがオーマズドからアフア・マズダー(イフアマズダ)に挿げ替えられているため,これは作為的なものだったと推測します。
 現存する聖典アヴェスタに,創造主アフア・マズダーと記されている部分は,後世の人間による改竄もしくは加筆であると考えます。
 このような処置を行った背景は,自分たちが崇めるアフア・マズダーの上に,絶対的な神である創造主オーマズド(ジェホヴィ)が君臨することに納得できない人々の存在がいたのだと考えます。
 彼らは創造主オーマズドを創造主アフア・マズダーにげ替えたのですが,ここで発生したのが,オーマズドの法です。そもそもオーマズドの法は地上の人間には決して理解できない内容です。『OAHSPE』のように奇跡を顕現してもらわなければ,その内容は確信できるものではありません。一方でイフアマズダの法やザラツゥストラの法は地上の人間に密接に関係する内容であるため,理解は容易でした。理解できないオーマズドの法であれば,そもそも存在しなくてもよいと判断したのではないかと思われます。
 しかし20世紀になり,『OAHSPE』によってオーマズドの法がジェホヴィの書と類似の内容であったことが分かりました。これにより,ザラツゥストラがのこしたかった聖典の内容についても解明できるのではないかと考えます。
 そのためには,古アヴェスタ語で書かれた「ガーサーのヤスナの章」について,『OAHSPE』の知識を使って読み解いた場合,どのように解釈できるのかを検証していこうと思います。

参考文献

  • 『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会
  • 『OAHSPE』

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