【OAHSPE考察3-2】東日流外三郡誌『阿曽辺族之変』

阿曽辺一族の歴史は古く,この一族に伝わる神話は次のようなものであった。
人類の草創期は海から出て陸に上がった。
人間が海の中にいた時,海月のようなものであり浮遊しておらず,息をしないで生きていたが,陸に上がってからは水陸に蛙のように行き来し,やがて猿のように変身し,ようやく呼吸を続けられるようになった。
そもそも神が,陸と海に生者を産み落としたという。そこで人はこの世に生まれた時に知能を授けられ,海に船を浮かべて海を渡れるようになり,火を起こし,獣の皮を着る知恵を得た。それなのにその知恵は人間同士が殺し合うものに使われてしまったがそれも神が授けたものなので,善も悪も,どの人間にも神は与えたという。それ故に人間は神を崇め,自分の身に降りかかる災難を振り払うことを願わなければならないという。
このような信仰心により,阿曽辺族は一族内で少しも争うこともなかったのだが,無知無情の津保化族に滅ぼされてしまったのは可哀そうなことである。

『東日流外三郡誌』阿曽辺族之変 ※現代語訳(拙訳)

【解説】

ここでは人間が海中から生まれたという説を唱えています。OAHSPEでは,地球に降り注いだ「セム」と呼ばれる物質をもとに創造主が最初の人間(アス族)を創造し,その後,「セム」を使って人間の肉体を形成し,それをもとに天使が受肉し,アスと交わってイヒン人が誕生し,そこからイフアン人,ドルク人など,数多くの人間種族が生まれることになるため,『東日流外三郡誌』が唱える「海中から生まれる」という説はダーウィンの進化論に似ており,これも後付けの説ではないかと思います。
この段落で興味深い点があるとすれば,次の部分です。
人はこの世に生まれた時に知能を授けられ,海に船を浮かべて海を渡れるようになり,火を起こし,獣の皮を着る知恵を得た。それなのにその知恵は人間同士が殺し合うものに使われてしまったがそれも神が授けたものなので,善も悪も,どの人間にも神は与えたという。それ故に人間は神を崇め,自分の身に降りかかる災難を振り払うことを願わなければならないという
神より得た知識を,人間同士の殺戮に使用しているという考えは,OAHSPEでも神々が嘆くところですが,興味深いのは「善も悪も,どの人間にも神は与えた」という部分です。
B.C.7,000年頃の,偽神アフラを最高神として崇めるゾロアスター教では,勧善懲悪の思想が根付いていますが,阿曾辺族の考えは違っており,「善も悪も神が与えたもの」なのでそれを受容し,神に祈り,悪を振り払うというものでした。
しかしこれが阿曽辺族の考えなのかどうかは定かではありません。なぜなら,阿曽辺族が跋扈していた時期はパン大陸水没前であり,その当時のパン大陸は悪が蔓延っており,『東日流外三郡誌』に書かれているような「阿曽辺族は一族内で少しも争うこともなかった」という状況ではなかった可能性があるからです。
「善も悪も神が与えたもの」という考えは創造主の教えに近いものがあるため,この考えはイヒン人,つまり津保化族渡来後に根付いた考えではないかと予想します。

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