阿蘇辺族の『アベ』という言葉は,生きている者を励ます言葉であり,『征く』『行こう』『起きよ』『覚めよ』という意味にも使われる。
昔のことに敬意を払わない者は現在で敬意を失い,大衆の中に孤独を味わうことになる。『アベ』という言葉は,今使っても恥じることもなく,東日流の古きことはとても誉れ高いことだ。語り部として,現在でも途絶えていない帯川の作太郎が言うには,
「昔々,そのまた昔,東日流に人がいなかった頃,西の海が凍って(=方言:しみで),たくさんの人間が海を渡りも,馬が渡っても壊れることがなかった。
そんな時,西の海の国で草も木も根もなくなって,虫も鳥も獣も人も,みんな死んでしまった。
そんな時,東の方から草の香り(=方言:かまり)が飛んできて,最初に鳥が空を飛んでいった。次に草を食べる牛(べこ)や馬,あと本当かどうかは分からないが象も来たと言う。
何だかんだで氷の上で鳥は糞尿を食べてやって来たのだ。その時,腹いっぱい食べたものがやって来て,死んだものは途中で倒れ,その後,犬や熊,虎がやって来た。そして途中で死んだ獣を食って,食べられなかったものが死んで,盛んに食べたものだけがこちらの方にやって来た。
人はどれだけ昔であっても頭が良く,父も母も,姉も兄も,誰一人死なずにやって来た。
ここから話そうとしても少しも話せないが,これが自分たちの祖先なのだ。この話は決して昔の小噺なんかではなく,本当にあった話で,この話に尾ひれは付いているかもしれないが,本当のことを話しているのだ。
何でも,いつの頃だったか,アソベという人の,男はケモド,女はタキというのが名前だという。
これは気付いていたことだが,王様になって子孫ができて,居心地よく(=方言:あづましぐ)暮らしていた時,現在の『いわき山』がまだ名前もなかった時,この近くにあった『アソベの森』と一緒に吹っ飛ばすように爆発して,噴火し,この下敷きになって死んでしまったのだ。
なんとも悲惨な話だが,これが今の天子様の先祖が名前もなかった時の,大昔の話なのだ」以上,語板木を解読した帯川の作太郎
文政五年(1822)一月
『東日流外三郡誌』阿蘇辺族伝話 ※現代語訳(拙訳)
秋田孝季記
本節では,阿蘇部族の祖ケモドとタキの逸話が記されています。要約すると,こうなります。
- 西の海の彼方に国があり,そこから凍った海の上を人や馬が歩いて歩くことができていたが,ある時,その国で飢饉が発生し,人や獣は海を渡って東日流の地に移住。
- 定住した人々の長は男はケモド,女はタキという。
- アソベの森で暮らしていたが,岩木山が噴火した時,人々はその被害に遭う。
個人的には,今回の説話には特に感じる所はありません。理由は以下の通りです。
東日流の地に辿り着いた人々は,北もしくは西から移住したように記していますが,『OAHSPE』(ジェホヴィの書-4章)では,創造主は最初「セム」と呼ばれる因子を地球に降り注ぎ,そこから様々な生物が誕生し,実体界と霊界にそれぞれ人間を創造したため,移住の手段は海を越える以外にもあったと考えます。と言います。つまり『OAHSPE』の記述が正しいのであれば,現在唱えられているような,人類の発祥はアフリカではなく,世界各地でほぼ同時に誕生し,最初はアス人が誕生し,やがて天使と交わってイヒン人が誕生し,その後,様々な人種が誕生したため,海を渡って東日流の地に移住する以外にも,もともとの大陸に住んでいた人々(この場合はワガ大陸)が移住してきた可能性もあるわけです。その点に触れていない時点で,おそらく口伝で語り継ぐ中で憶測が混じったか,もしくは正しく伝えられなかったため,この説話自体,重視する点は少ないと判断しました。
それでも「火のない所に煙は立たぬ」という諺があるように,こういった伝承があるということは何かしらの原話があった可能性があるため,今回は空振りに終わってしまっても検証は続けていく予定です。
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