【解説】
紀元前3,000年頃，リスティア人の下に身を寄せ，そこで生計を立てていたアブラハムは数多くの奇跡を見せていました。そのことを耳にしたかつての同朋であった王侯貴族の奴隷は，次々と脱走してアブラハムの下に集まりました。
アブラハムは彼らを集めようとして奇跡を見せたわけでもありませんが，それでも集まってきたため，その理由を問い質しました。
この時の問答が引用した部分になります。
奴隷たちはアブラハムの奇跡を耳にして，もしかしたらアブラハムならば自分の境遇を救ってくれるのではないかと期待したことは容易に想像できます。
では，それをアブラハムに伝えられたのかと言うと，それは難しい話です。何故なら，引用した部分にもありますが，アブラハムは彼らを呼んでいないからです。
仮に奴隷たちがアブラハムに「あなたならば自分たちを救ってくれると思ったから」と答えたとします。
アブラハムにはそんな義理もありませんし，そもそもそのような都合の良い力を持っていません。
実際は『OAHSPE』に書かれた以上のやりとりがあったのだと思います。最初は，脱走してきた奴隷たちにいろいろと懇願されて，何度も断っていたのだと思いますが，アブラハムは少し思い直して，彼らが自分を頼って来た理由について考えました。
その結果，彼ら奴隷たちが自分を頼ったのは，彼ら自身の考えではなく，何か『見えざる力』によって導かれてきたのだろうと思い直しました。
「神があなたたちを連れて来たのです。人間は一人では何もできません」
ここでは『見えざる力』も借りないで人間が自分の力だけで何かを成し遂げられることなど何もないと言っています。『祈り』の時と同じですが，為したい「何か」がある場合，それが自分の都合のためなのか，それとも誰か他人のためなのか，それにより自分に働きかける『見えざる力』も神々の恩恵に預かれるのか，それとも自分自身のテトラクトに引きずられるのかが決まってきます。
アブラハムの場合は，逃亡してきた奴隷たちは，最初の発願は辛い状況から逃げたいという自分都合のものだったのかも知れませんが，搾取された苦境から解放されるのは「神々の救済」の力が加わっている可能性がありました。アブラハムもそれに気づいたため，「神があなたたちを連れて来た」と言ったのだと考えます。
余談ですが，自分のイメージした通りのことを実現していく「引き寄せの術」というものがあります。有名なのは「ザ・シークレット」（ロンダ・バーン著）という書籍で，どうすれば自分の願った通りのことを実現できるのかというテーマのもと，数々の体験談を交えながらその仕組みを解説しています。
もしもこの書籍を手に取る機会があるのでしたら，「秘密の使い方」という章は一読の価値があると思います。
願わくば，自分の利益や都合のためだけに使われないことを。
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