【解説】
紀元前7,000年頃に活躍したゾロアスター教の創始者ザラツゥストラとパーシー(後のペルシア)の大都市オアスのアシャ王との対話より引用しています。
アシャ王は,生まれたばかりの頃からザラツゥストラを知っており,ザラツゥストラに宿っていた神イフアマズダが見せた奇跡を何度も目の当たりにしてきました。
当時,オアスの町はパーシー地方の中心都市でしたが,神イフアマズダはオアスの町を悪の根源と捉えており,いずれ滅ぼすと決めていました。
その思いを確固たるものとする出来事が,先代ソーチ王によるザラツゥストラへの迫害でした。
当時,哲学者であり,ソーチ王の縁者であったアシャは,ザラツゥストラの奇跡を聞いて王の下に連れて行こうとしましたが,ソーチ王を信用していなかった神イフアマズダはその都度,逃亡しました。そのためソーチ王はザラツゥストラの捕縛を命じ,ザラツゥストラは神イフアマズダの導きにより母トーチェと一緒にオアスの町から脱出しました。
ザラツゥストラを連行できなかったアシャはそのことをソーチ王に報告すると,ソーチ王は激怒し,オアスの町の全ての幼児を処刑すると命令しました。この命令にはソーチ王の孫も含まれていたため,ソーチ王は後悔しましたが,自分の命令を撤回することは沽券に関わるため,それを切り出せずにいました。
アシャはこの命令を知ると,幼児の身代わりに自分を処刑するようにソーチ王に懇願しましたが,ソーチ王はアシャも幼児も処刑せず,この命令を有耶無耶に終わらせてしまいました。しかしソーチ王の意志の弱さを見た民衆は武装蜂起し,このクーデターでソーチ王とその側近は殺害されました。
この後,気概を示したアシャが民衆に推戴され,オアスの王になりました。
アシャ王は即位後,善政を心掛けましたが,神イフアマズダの目には依然としてオアスの町は悪の根源と映っており,滅ぼす意思は変わっていませんでした。
やがてザラツゥストラは成人するとオアスの町に戻り,アシャ王と20年ぶりの再会を果たし,神イフアマズダの意志を伝えました。アシャ王はザラツゥストラの奇跡を再び自分の目で確かめると,ザラツゥストラを信奉し,ザラツゥストラが聖書を書き上げるのを支援しました。
やがて,ザラツゥストラが聖書をアシャ王に献上すると,アシャ王はそれをパーシー地方の全都市に配布しました。これで役目を果たしたアシャ王は退位し,全ての財産を擲ってザラツゥストラの下に師事しました。
しかしこの退位には様々な葛藤がありました。そもそも哲学者であったアシャ王は霊魂の存在を神イフアマズダから聞かされてもすぐには信じられなかったのです。
「私の心には一粒の信仰心もないのです。どうしたらそれを育めるというのですか?」
哲学者であったが故に,理屈でこの世界を考えていき,この世界を苦しいと思うあまり次のように思ったほどでした。
「むしろどうやったらこの世界から逃れられるのか教えてほしい」
「この人生は一体,何の役に立っていると言うのですか?」
これに対して神イフアマズダは次のように答えました。
「あなたは自分の人生を楽しんでいないので,自分の哲学が不完全であることに気付いていますが,世界も不完全であることに気付いていません」
世界が不完全というのは,この世界はまだまだ発展の余地があるということを意味しています。完全な世界とは,成長が望めない世界を指しています。しかし成長が望めるのであれば,努力する意味が生まれてくるわけです。
そしてこれが人生の意味となります。
世界は不完全であるが故にそこに成長の余地があり,人間は生涯をかけて成長するために努力していくのだと神イフアマズダは言っています。
その成長を導いてくれるのが,創造主です。
創造主はこの世界の全てを支配しており,幸福を糧としていると言います。人生の目的が「成長」にあるのだとしたら,その成長を導いてくれる創造主を信じることが何よりも必要であり,創造主は人間が成長することで得られる幸福感を糧としているため,創造主を信仰することは自ずと幸福に満たされることに繋がるわけです。
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