【解説】
紀元前7,000年の時代,ザラツゥストラが生まれ育ったパーシー(ペルシア)では数多くの国が互いに戦争を行い,多くの人々がその犠牲になっていました。戦勝国は自国の威信を顕揚するように死者の骸骨を城壁に掲げ,その死が弔われることはなく,領土拡張のため,さらなる戦争を他国に仕掛けていました。
これらの戦役には多くの兵が必要であり,その負担は自国民に重く圧し掛かっていました。いくら自国の発展だからと言って,そのために意気揚々と戦場に向かう国民は僅かしかなく,多くの人々はこの圧政を恨んでいました。国が強国の名を恣にしてもそれが生活に何ら寄与しなければ,その政策を支持する人などいないからです。
しかし国を統治する側はそうではありません。自国の発展は自分の名誉に直結するからです。
こうして圧政者と,虐げられる国民の構図が生まれ,両者は互いに反感を抱いていきます。圧政者は自分の意のままにならない国民に苛立ちを覚え,強制的に従わせようとして悪法を制定していきます。一方で国民の生活はさらに厳しさを増し,統治者に対する憎悪を募らせていきます。
このような国は大抵,国民の反旗によって滅びます。国民が武装蜂起して国が亡ぶことがあれば,他国の侵略に国民が手を貸して亡ぶなどです。
国が亡び,国民が圧政から解放された時,国民は当然ながらそれを喜びます。ところがザラツゥストラはそこで警鐘を鳴らしました。それが今回引用した部分になります。
「暴君から解放されたこの人々は,彼の敵となるでしょう」
国民の憎悪は,長らく自分たちを苦しめてきた暴君に向けられます。なぜなら「長く抑圧されてきた人々は復讐を好む」からです。
こうして復讐は連鎖となって続いていきますが,これは多くの人を巻き込む怨嗟の渦となり,やがて「地獄(hell)」や「群れ(knot)」を作っていきます。
現世における生活はもとより,死んだ後の天界でも地獄となり,どこにも救いがない状況となります。
この状況をザラツゥストラはこう言いました。
「それはオーマズドの法を阻害します」
死者の霊魂が安らかに昇天するため,人間は他の人間を決して殺してはならず,苦しめてもならないわけです。虐げられた側としては,それを甘受することはなかなかできないことです。それならば,せめて不干渉を貫いた方がまだましなのかもしれません。
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