【OAHSPE考察2】ヤスナ第54章(1節)

1節

愛しいアーリヤの集団がザラスシュトラの男女の信徒のもとへ助けに来るように。
ウォフ・マナフの助けのために,その信仰によって望ましい報酬を得るために。
アフラ・マズダーが割り当てたアシャの望ましい報酬を私は懇願します。

『アヴェスタ』ヤスナ第54章 1節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本章はたった1節しかありませんが,前の53章では触れていなかった報酬主義が再び顔を覗かせており,締めくくっています。
2行目「信仰によって望ましい報酬を得るために」がその全てを物語っています。
望ましい報酬を得るために信仰する,逆に言えば,報酬が得られなければ信仰しないということになります。

解題:ヤスナ章(古アヴェスタ語)の分類

ヤスナ章(古アヴェスタ語)の部分について,各章をそれぞれ分析すると下表のようになります。

概要テーマ報酬主義
28アシャ(正義)とウォフマナフ(善思)を守るので,その恩恵として神々は我々に報酬を与えてほしい。また邪悪な者を改心させるため,我々を助け,我々の望みを満たしてほしい。正義,善思の遂行(報酬主義)
29怒りと暴力と暴虐,捕囚と虐待で縛られる現状に対して,未来はあるのかという嘆きに対して,現状の苦境を救済してくれる神々に祈りを捧げる救済の懇願
30善人と悪人がそれぞれ辿る道について。
不義者には長い破壊があり,善者には幸福がある
正義と悪が辿る未来について
31義者と不義者には相応の報酬(因果応報)があり,不義者は必ずその報いを受けてもらうので,そういった神々の支配に期待したい。正義と不義の報い(報酬主義)
32不義者は悪行を重ねても,義者は最後に勝つ最終的な勝利者(義者)
33義者が義者の道を歩むために,神々の助けを借りる義者が歩むべき道について
34善行に励んだら報酬が貰え,善行の量によって報酬の分配量も変わる善行の励行(報酬主義)
35アフラ・マズダーやアシャ・ワヒシュタ,ウォフ・マナフを始めとするアムシャ・スプンタ諸神に対する賛歌。
原典も混在している可能性があり,複雑で難解な内容
祭祀文
36善思,善良,善行,善き言葉を行いながら,アフラマズダーに近づけるように努力する祭祀文
37最高神アフラ・マズダーを筆頭に,ウォフ・マナフ,アシャ・ワヒシュタ,スプンター・アールマティを讃える祭祀文
38大地の女神スプンター・アールマティを讃える祭祀文
39牛に始まる人間以外の生き物に対する祭祀文祭祀文
40報酬を与えてくれたら,家族や共同体という単位で信仰する祭祀文(報酬主義)
41アフラ・マズダーとアシャを崇敬する祭祀文祭祀文
43義者と不義者に相応の報酬が神々より下賜されることを望む。
義者への報酬は良いものであり,不義者への報酬は悪いものである。
正義と不義の報い(報酬主義)
44正義,善思を通じてアフラに仕え,その教義を信じることで健康,不死といった報酬を得られる正義,善思の励行(報酬主義)
45良い霊魂と悪い霊魂の存在。
世界の創造主であるアフラマズダーから健康と不死という報酬が得られる。
報酬主義による良い支配の実現
46弱者(義者)の心の内を代弁しつつ,それを救済するアフラマズダーへの信仰を説く。弱者の立場を守るためならば流血を厭わない。それが正義であり,その正義を遂行した者には褒美が与えられる報酬主義による良い支配の実現
47不義者は悪行によって富を得ていても,義者には「良いもの」が与えられると約束されている,だから悪行に走って富を得ようとせず,善行に励みなさい善行の励行
48悪しき支配者ではなく,良き支配者が支配する世界にしたいが,現世を生きる上で,良き支配者は我欲を押し殺さなければならないため,それに見合った報酬を示すことで良き支配者を促進する。報酬主義による良い支配の実現
49自分を苛むバンドワから身を守り,正道を守るにはどうすればよいのかという主題の下,正義(アシャ)や善思(ウォフマナフ)に近づくかそうでないかで善と悪が分かれるため,悪道に走らないようにと説く善道の励行
50世界の創造主が繁栄し,意のままに素晴らしいものが実現できる世界を
実現したい
世界の理への渇望
51善行に励めば対価をくれる都合の良い世界を作ってくれる神々を祀ってあげるので,対価(利益)を与えて欲しい善行の励行(報酬主義)
53悪の道に堕ちていったドルジは,繁栄してもきっと神々の贈り物を得られないので,正しく生きることを説く善と悪について

解題:アフラの教義の変遷

OAHSPEによれば,ザラツゥストラが活躍した時代は,神フラガパッティが地球に降臨した紀元前7,000年頃のことです。
創造主ジェホヴィは地域によってオーマズドだったり,ティイン,ギッチーなどと呼ばれますが,「創造主」としては同じになります。
ザラツゥストラはパーシー(ペルシア)で生まれ,創造主オーマズドを信仰し,地球のイフアン人の神イフアマズダ―より啓示を受けて活動した信仰者であり,伝道者です。
ザラツゥストラはパーシーの中心都市オアスの王アシャの庇護の下,オーマズド,イフアマズダ,ザラツゥストラの教義を記した『聖書』をしたため,パーシー国内に流布させました。これによりザラツゥストラを信仰する人々(ザラツゥストラ人)が誕生し,後のゾロアスター教へと発展していきます。
ザラツゥストラはパーシー国内の巡礼し,最後に訪れた生まれ故郷のオアスの町で命を落としますが,ザラツゥストラの教義は後の時代にも引き継がれていきました。

ところが神フラガパッティが上天に帰還した後,地球の主神の一人クトゥクスが創造主をかたるようになりました。クトゥクスはアフラと名乗り,自分が創造主であり,オーマズドの存在を抹消し,神イフアマズダをアフラマズダと改め,ゾロアスター教の教義を改竄していきました。
アフラの狙いは,ゾロアスター教の信者(ザラツゥストラ人)の取り込みでした。これは流血を伴いながら一定の成功を収め,ゾロアスター教の聖典はアフラの教義となりました。
現在に伝わる聖典「アヴェスタ」にオーマズドの教義は残っていません。しかし聖典「アヴェスタ」には古アヴェスタ語で記された部分(ヤスナ第27章から第54章)があり,ここには改竄前の教義(原初の聖典)の痕跡があるのではないかという推測の下で,考察を始めました。

この考察を進めていく中で分かったことの一つに,アフラの教義の根底には,善には良い報酬,悪には悪い報酬という報酬主義が流れていますが,最初から報酬主義ではなかったということです。
例えばヤスナ第49章では善行を貫くのであれば悪に近づかないこととし,ここでは報酬主義は説かれていません。また第53章では闇落ちしたドルジは神々の贈り物を得られないので正しく生きることを説いており,報酬をぶらさげて善行を励行していません。
ところがこういった内容はヤスナ章の古アヴェスタの部分で言えば稀であり,それ以外は「良い報酬を貰いたいならば善行に励む」ことが推奨されています。
後に偽神アフラの王国が崩壊し,アフラが地獄に堕ちた後,改心して復帰した時,創造主ジェホヴィはアフラが偉大なる神になると期待する言葉を述べています。
確かにアフラは偽神時代に随分と悪逆な行為に手を染めていましたが,当初の想いはダンで闇落ちする人々から救いたいがありました。ダンが訪れると涅槃から光が届かなくなり,そのせいで地球は闇に覆われます。そうすると地球で暮らす人々の心から光が消え失せ,人々の心は闇に支配されます。
アフラはそうした状況を打破するため,地球に涅槃を創ろうと考えました。そこでアフラは地球に光の根源となる存在,つまり創造主を誕生させようとしました。
この問題点は,創造主以外には光を生み出せないことでした。結局,偽神アフラは光を生み出せず,地球はさらなる混迷を辿っていきました。
さて,偽神アフラは最初から悪ではなかったという点を鑑みた場合,古アヴェスタ語で書かれたヤスナ章の部分を考察していくと,ヤスナ第49章や第53章のように報酬主義を掲げていない部分と,報酬主義を掲げている部分,さらには第46章のようにアフラの教義に反する者には鉄槌を下すような過激な内容もあります。
OAHSPEによれば,偽神アフラが最後の行幸を実現する前にアフラの王国が崩壊したことで大惨事は免れたと言います(OAHSPE-21『真神の書』15章-30)
こういった聖典アヴェスタの内容を分類していくと,アフラの教義は次のように変化していったのではないかと考えます。

また上図のアフラの教義の変化を「アヴェスタ」(古アヴェスタ語の部分)の章ごとに分類していくと下表のようになると考えます。

項目ヤスナ章
善行に励み,悪行に走らない29, 30,49, 50, 53
良い報酬のため,善行に励む28, 31, 32, 33, 34, 43, 47, 48, 51
自分の信者は善者44, 45
信者以外の撲滅46

かつて偽神であったアフラは,恐らく現在は『ヴァラピシャナハVara-pishanaha』という天界の神として君臨していると思われます。
人はいたみを覚えることでより成長すると言います。(OAHSPE格言:傷みを知らずに成長するよりも,傷みを知って成長した方が良いということ
そして神アフラの物語は現在も続いていると思われます。
かつて悪神であった神アフラの物語を紐解く上で,こういった視点も必要ではないかと考え,今回,謎に包まれたゾロアスター教の聖典アヴェスタ(特に古アヴェスタ語で記されたヤスナ章)について考察しました。

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