【OAHSPE考察2】ヤスナ第41章(1節-8節)

1節

称賛と賛歌と祈りを
アフラ・マズダーとアシャ・ワヒシュタに
我らは供え,捧げ,奉納する。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 1節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本章は全体を通してアフラ・マズダーとアシャを崇敬する内容となっています。
最終節以外は,基本的にこの2人だけが登場人物となります。
他の章では善思を司るウォフ・マナフも登場するのですが,本章だけは登場しません。

何故,善思を無視して「正義」だけが登場するのでしょうか?

他の章でも述べてきましたが,それは本章が原典からの改竄・転用だからです。
ザラツゥストラに宿した神イフアマズダは,アシャとも友誼を交わしていました。本章に登場するアフラ・マズダーを神イフアマズダと見做した時,その情景が浮かんでくるのが本章です。
そういった視点で本章は考察していきます。

まず,本節を次のように読み替えます。

称賛と賛歌と祈りを
オーマズドイフアマズダ
我らは供え,捧げ,奉納する。

原典からの転用だとすると,「供え,捧げ,奉納する」は神格であるため,人間であるアシャは不適切です。そのため,本節は創造主オーマズドとイフアン人の神イフアマズダが「供え,捧げ,奉納」の対象だったのではないかと考えます。

2節

アフラ・マズダーよ,
あなたの良き支配を永久に我らが得るように。
男であれ,女であれ,良き支配者が
両方の世界において我らを支配するように,
おお,存在するものの中で最も寛大なものよ。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 2節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節は最高神による「良き支配」について語っています。これを以下のように読み替えます。

オーマズドよ,
あなたの良き支配を永久に我らが得るように。
男であれ,女であれ,良き支配者が
両方の世界において我らを支配するように,
おお,存在するものの中で最も寛大なものよ。

本節は4行目の「両方の世界」つまり「物質界(実体界コーポリアル)と霊界」において,自分たちを良きように支配してくれることを,創造主オーマズド(ジェホヴィ)に祈願する内容になっています。

3節

我らは,あなたを良い力をもち,活力を与え,
アシャを友とする神と認める。
かくてあなたが両方の世界において,我らの命,肉体となるように。
おお,存在する者の中で最も寛大なものよ。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 3節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節は2行目が特に悩ましいところです。理由は「我ら(人間)」が「神と認める」と尊大な表現となっているからです。
実際は「認める」ではなく「崇める」という表現だったのではないかとも思いますが,この部分は原訳通りとします。

本節を以下のように読み替えます。

我らは,あなたを良い力をもち,活力を与え,
イフアマズダの御父である神と認める。
かくてあなたが両方の世界において,我らの命,肉体となるように。
おお,存在する者の中で最も寛大なものよ。

本文の「あなた」は創造主オーマズドを指しています。イフアン人の神イフアマズダは下天の神であり,原初のゾロアスター教の信仰者が日頃慕い,教えを蒙る主神です。そのイフアマズダの御父である創造主オーマズドを神と崇め,「両方の世界」つまり「物質界(実体界コーポリアル)と霊界」で「我ら(人間)の命,肉体となる」ことを祈願しています。

4節

アフラ・マズダーよ,
我らがあなたの生涯にわたる助けを獲得し手に入れるように。
あなたを通して我らが元気で強くなるように。
長い間,そして望み通りに,あなたが我らを助けてくれるように。
おお,存在する者の中で最も寛大なものよ。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 4節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節は以下のように読み替えます。

オーマズドよ,
我らがあなたの生涯にわたる助けを獲得し手に入れるように。
あなたを通して我らが元気で強くなるように。
長い間,そして望み通りに,あなたが我らを助けてくれるように。
おお,存在する者の中で最も寛大なものよ。

本節は,創造主オーマズドに対して,生涯を通じた助けを祈願する内容となっています。

5節

アフラ・マズダーよ,我らはあなたの称賛者,聖句を唱えるものであると
宣言し,そう望み,そうなりたい。
ダエーナーのゆえに,私にふさわしい褒美を与えよ,
アフラ・マズダーよ。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 5節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節は以下のように読み替えます。

オーマズドよ,我らはあなたの称賛者,聖句を唱えるものであると
宣言し,そう望み,そうなりたい。
ダエーナー(信仰)のゆえに,私にふさわしい褒美を与えよ,
オーマズドよ。

本節はオーマズドを讃える聖句となっています。個人的には「信仰と褒美」の組合せで記述されている3行目が多少腑に落ちませんが,「信仰に見合った加護」と解釈すればOAHSPEの教義に沿っているので,このままとします。

6節

この世界と霊界のために,
我らにこの[褒美]を与えよ,
それによって永遠にあなたとアシャとの結合を達成するもの,それを。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 6節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節は以下のように読み替えます。

この世界と霊界のために,
我らにこの[褒美]を与えよ,
それによって永遠にあなたとアシャとの結合を達成するもの,それを。

本節は,信仰により永遠にあなた(=創造主オーマズド)と一つになることを祈願した内容になっています。
本節は「アシャ」の一語を挿入しただけで「正義を遂行する」という,まったく別の意味になってしまいましたが,本来は信仰を通してオーマズドと一つになるという内容であり,これであればOAHSPEの教義に則したものとなります。

7節

存在する神々のうちで,どの男神が祭祀において優れたものであるか,
アシャにより,アフラ・マズダーは知っている。
同様にどの女神がそうであるかも。
このような男神や女神を,我らは祭る。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 7節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節は以下のように読み替えます。

存在する神々のうちで,どの男神が祭祀において優れたものであるか,
アシャにより,オーマズドは知っている。
同様にどの女神がそうであるかも。
このような男神や女神を,我らは祭る。

1行目の「存在する神々」とは,神々の中で偽神もいることを示唆しています。
本節はそういった神々の中で,どの男神,女神が祭祀に相応しいかを述べています。

8節

ここにおいてまた他のところで,
今現に行われ,またすでに行われた,
善思・善語・善行の,
我らが称賛者であり,
そのような良きことの非難者ではない。
(以下,ヤスナ第27章 13節と同じ)
望ましいアフ(主)であると同時にアシャに従うラトゥ(指導者)である。
善思と善行の支配権をアフラ・マズダーに委ねる者で,その彼を貧者のために牧者と定めた。
(以下,ヤスナ第27章 14節と同じ)
アシャは最高の良きものである。
それは望み通りに望む者のものである。
アシャはアシャ・ワヒシュタのものであるから。

義であり,アシャの長である,
力強いヤスナ・ハブタンハーティを我らは祭る。

(聖句イェンヘー・ハーターム:ヤスナ第27章 15節と同じ)
存在する神々のうちで,どの男神が祭祀において優れたものであるか,
アシャにより,アフラ・マズダーは知っている。
同様にどの女神がそうであるかも。
このような男神や女神を,我らは祭る。

『アヴェスタ』ヤスナ第41章 8節
引用:『原典完訳アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』訳:野田恵剛 国書刊行会

本節はヤスナ第27章の常套句を挿入した内容となっています。前章と似た常套句を繰り返すように挿入しているのは,他の章との構成上のバランスを取りたかったからではないかと予想します。

本章は他の章とは明らかに構図が異なり,原典からの転用の可能性が高いと考えています。
原初のゾロアスター教の信者を獲得するため,長い歳月をかけて少しずつ言葉を変容させていったのが本章ではないかと考えます。

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